6.29.2006

同僚

 NHKは語学講座の他にも21の言語で*放送しています。ロシア語もその中に含まれているので、ほぼ毎日ロシア語ニュースを聴いています。今日はニュースの中で面白いと感じた表現をご紹介します。
 耳を引いたのは、モスクワで麻生外相がロシアのラヴローフ外相と会談し、北朝鮮にミサイル発射実験を思いとどまるよう、また拉致問題の解決のために日露両国が足並みを揃えることなどで合意した、といった内容のニュースでのこんな表現でした(NHKがニュースを更新してしまったので記憶を頼りに復元しました)。

... согласие между японским министром иностранных дел Таро Асо и его русской коллегой Сергей Лавров ...

…日本の麻生太郎外相と彼のロシア側の同僚・セルゲイ・ラヴローフとの合意…

 日本語だと麻生「外相」とロシアのラヴローフ「外相」との合意、精一杯頑張って麻生「外務大臣」と…という程度。片やロシア語は彼我が同じ立場であることに注目して「同僚」という表現をさらりと織り交ぜる。さとうさん曰く、ロシア語は繰り返しを嫌うそうですが、流石は文学の国、ニュースでも同じ語を巧くかわしつつ洒落た表現が求められるのですね。
 もっとも略語の発達した日本語は「が・い・しょう」と3音節で済みますが、ロシア語だとминистр иностранных дел/み・にーすとる い・の・すとらん・ぬぃふ ぢぇる、と6音節必要やねんから、繰り返しばっかりしとったら「寿限無寿限無後光の擦り切れ…」になってまうやん(泣)、という事情も大いにあると思います。
 ところでこれを書く際に「外相」と打とうとして「外傷」と誤変換してしまいました。日本語は繰り返しを厭わないだけでなく、同音異義語も広く受け容れています。こんな離れ業を我らが先人は漢字を輸入・加工することで可能にしてきました。一方ロシア語はと言うと、ラテン語由来の外来語が少ないので各種専門用語であっても自前の表現が沢山あります:独語や仏語などと異なり英語との互換性などまず期待できません。
 果てしなく広がってゆく日本語。意地でも自分の胃袋で消化しようとするロシア語#。ことばのセンスの違いはこんな身近なところからも伺えます。


*NHKワールドは英語をはじめ、中国(北京語)、ハングル、タイ、ヴェトナム、マレー、インドネシア、ビルマ、ベンガル、ヒンディ、ウルドゥー、ペルシア、アラビア、スワヒリ、ロシア、スウェーデン、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガルの21言語にて全世界に向けて放送しています。詳しくはこちらから。

#もっとも最近はロシアといえどもグローバル化の波に揉まれ、英語からの借用語が増えているそうです。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

コーシカさま
 そうですね。時々思わぬ表現に出くわして、へえと感心することってありますよね。
 ただ、この表現に関しては、英語の同義語(colleague)でも、どうも同じ使い方をしているようです。
 ラテン語起源(英和辞典より)でインド・ヨーロッパ語族でほぼ同じ意味で使われている言葉だそうですから、早くからロシア語でも同様に使われてきたのか、または、ロシアにもフランス経由で入っていった言葉なのか(「元はフランス語」とありました)。はたまた、この使い方のみ、英語から借用したのか…。すみません、全く分かりません。
 だけど、各国での現在の使われ方に少しでも差があるとすれば、おもしろいですよね。
 あと、この文脈で日本語に訳すとすると、「交渉相手」「カウンターパートナー」(あ、これは日本語じゃないか)など、少し意訳したいかなと思うのですが、どうお考えでしょう。コーシカさんは、あえて直訳されているのだと思われますが。
 でも考えてみると、対立する可能性のある相手を「同僚」の意味も持つ言葉で表現する。そのことは、国同士のもめごとでも長年もまれてきた、あちらの大陸の政治的成熟度(知恵)を示すものかもしれないと少し考えさせられました。
 なお、書かれておられるとおり「英語そのままやん」という言葉は増えていますが、生活に直結するプリミティヴな言葉は「なじみの薄ーい」言葉だらけ、ですよね。それがまた、訳の分からない変化をする訳で。
 ほんと万年初心者には頭がいたいです(笑)。そこがいいんですけど。なんとか守ってもらいたいです。▽コアラ

コーシカ さんのコメント...

コアラさん、いらっしゃいませ。お返事が遅くなり失礼いたしました。
 補足的なコメント、また熟れた訳例をご提案下さりありがとうございます。

>生活に直結するプリミティヴな言葉は「なじみの薄ーい」言葉だらけ、ですよね。それがまた、訳の分からない変化をする訳で。
 日々の暮らしに根ざした表現となると独語や仏語などでも英語との互換性はあまり無くなってくるような気がします。それでもロシア語などよりはるかにヨーロッパ独特のにおいを共有しているかもしれませんね。
 ただロシアは変化も自前なので慣れてしまえば「あ、なるほど!」と頷けるようになります。例えば昨日私は「разряд(放電)」という語を見つけましたが、「раз-ですか。そうですか。」と妙に納得しました。
 読むほどにロシア語の勘も身に付いてきます。私も読書量が全然足りませんのでお互いに頑張りましょう!ロシアへ行って(あるいはロシア語しか通じない環境に身を置いて)体で覚えるのもいいですね。

それでは