9.13.2014

60の手習い~タブレット端末編

さとうさんが、60の手習い~ロシア語編をご提案されています:

お稽古事(習いごと)感覚で、ロシアやロシア人を知ること、特に庶民の文化を知ることを趣味や生きがいにしてはどうだろう?

退職してすることが無く困っている団塊世代の方々にもロシア語をお教えしますよ
若い人ももちろん歓迎
とのことです(和文露訳指南第36回)。

このご提案は
・さとうさん理論の有効性の証明
・現役を退かれたロシア語の達人に別な形での現役復帰の可能性を提示する
などなど
とても良い実を結びそうに思います。同年代以上の生徒さんが早く見つかるといいですね。


温かくも厳しいさとうさんのご指導に60の手習いで付いていけるんか?とは思いますが
コーシカはこの1月からシニア世代(60代から80代)のご婦人20人以上を相手に
タブレット端末をお使いになるお手伝いをしております。これが大変ながら勉強になっていますので
さとうさんの挑戦もどんな発見に至るのか、楽しみです。


という訳で、60の手習い~タブレット端末編、はじまりはじまり~

まず全世代に共通するのが
・やる気は十分
・パソコンはほとんどあるいは全く使えない
・従って問題が起こってもインターネットで検索して自己解決できない
・よって同じことを何度も訊いてこられる
・絵本のような説明書を別作しても読まれない(持ってることで安心はされますが…)

60代は
・一度要領を掴まれると応用してゆかれる
・介護や家事などで触る余力がなく、操作を忘れられる場合がある
ということが多いと感じます。

70代以上は
・遠慮深い方が多く、切羽詰るまでお問い合わせをされない(これ結構困ります…)
・応用は端から捨てて、一つを確実に覚えて確実に繰り返される
という違いもあります。

機械のつくりを敢えて説明せず、当然コンピュータ用語もほとんど全部縦文字に置き換え、
必要最小限の操作だけをお伝えしているのですが、それでも
チェック項目が多すぎる!という声が結構あります。
そういう時は

車の運転でも計器や標識は多いですが
常に気を配っていないといけない対象は少ないでしょう、それと似ていますよ

という旨をお伝えし、出来るようになられた点に注意を引くようにしております。

こういうやり取りをしておりますと
(おそらくは男女の脳のつくりに起因する)認識の仕方の違いを実感したりして面白いですよ~

言語に対する取り組み方にも脳のつくりの違いがあるのでは、と(これまで体験した限りにおいては)感じます:
男性は体系的に文法と四つに組むことも厭わない人がそれなりに見られるのに対し
女性は会話が出来ればそれで良い、という姿勢が強いように思われます。

9.12.2014

「…から」を使って原因を示す言い方~英露独西蒙の比較

9月13日にさとう好明さんよりコメントを頂戴し、大幅に加筆修正しました:

さとうさんがブログで続けてくださっている和文露訳指南。
その第34回に、常連のチジクピジクさんが実に興味をそそるコメントを投稿されました

(以下が引用)
起点を表すロシア語の前置詞「от」に相当するトルコ語の後置詞「dan」でも受け身の動作主を示せます。
また、日本語の格助詞「から」も同様に示せるようです。
http://www2.ninjal.ac.jp/takoni/DGG/04_voisu.pdf
本題から逸れますが、名詞が所有形容詞化する「-ный」や「-ин」も
響きや位置がトルコ語の属格の後置詞「(n)in」や日本語の格助詞「の」に似ているなと昔から思っていました。
ロシア語と同じ印欧語族の英語の前置詞「from」は受け身の動作主を示せない?と思うので、
ロシア語はアルタイ語族の影響を受けたのでは勝手に想像しています。
(引用おわり)

おぉ~
面白そうなので調べてみました。

結論:

露独西蒙をざっと見渡した限り
奪格ないしそれに近い意味の前置詞で動作主や原因を示す仕方に
ぼんやりとした共通の発想が見られそうです。

あるいは英独西各国語とも、大元は英語で言うofだけだったのが

意味が広すぎるので、from、aus(独)、desde(西)をのれん分けして場所を受け持ってもらったり
for、por(西)にしたりと、
別な語を使って正確を期すように代わっていったのかもしれませんね。

概要:

1. 「…から」と訳せる表現
2. 受身文の比較~英露独西
3. 原因の表現の比較

1. 「…から」と訳せる表現
英 of, from(出所の意味が強そうです) など
露 от из-за など
独 von, aus(これは出身地などを言う時に使います) など
西 de, desde(場所を表す語との例が多いと感じます) など
蒙 –аас

2. 受身文の比較~英露独西

・英語の場合
be + 過去分詞 (+ by)
動作主を明示する場合にby(…の傍で)を使いますが、これは
性質や所在、状態を指すbe + 過去分詞(受身の形容詞)
by=過去分詞の状態を作り出す付帯状況(…の傍にいるので過去分詞の状態になる)
という組み合わせだからです。

・ロシア語の場合

被動形動詞過去を使う場合は造格=творительный падеж=行為を創る格
を使って受身文における動作主を表します。
不定人称文といって、3人称複数を使って動作主を隠す方法もあります。

9月13日にさとう好明さんよりコメントを頂戴しました:

和文露訳指南第34で書いたように、от + 生格が、造格とともに受け身で動作主となれると書いてあるのは、
1794年に出た、ПисьмовникというКургаков Н. Г.の文法文例集です。現代ロシア語では造格だけですから誤解のないようにして下さい。
コーシカの返答:
指摘ありがとうございます。誤解の無いよう全面的に書き直しました。

・ドイツ語の場合

ドイツ語の受身文は
werden + (von または durch 3格) + 過去分詞 ですから
ドイツ語もvonで受動文の動作主を表します:英語で言うoffromに跨る意味の広い語です。

Die Prinzessin wird vom König sehr geliebt.

王女は王様にとても愛されています。
Die Tür ist geöffnet. 扉が開けられています。
(信岡資生『イラストでわかるドイツ語文法+トレーニングブック』ナツメ社、2011年、202、205頁)
Von wem wurden die Blumen geschenkt? この花はだれからいただいたのですか。
(『マイスター独和辞典』大修館書店、1998年、von 7)

durchを使うのは原因や手段などの場合のようです:英語で言うthroughですね。

Die Stadt wurde durch ein Erdbeben zerstört. その都市は地震で破壊されました。
(信岡、前掲書、202頁)

また状態受動といって、英語で言うbeを使う方法もあります

sein + 過去分詞
Die Tür wird geöffnet. 扉が開けられます。
(信岡、前掲書、205頁)

英語はforを原因や理由の意味で使えますが

ドイツ語のfürについてはそうした用法を確認できませんでした。

・スペイン語の場合
スペイン語の受身文は
ser + 過去分詞 (+ por) :英語で言うとbe + 過去分詞 + for 
です。

La puerta fue abierta. ドアが開けられた。

(福教隆『ニューエクスプレス スペイン語』白水社、2007年、110頁)

estarを用いると状態を表せるようです:英語だとbeの守備範囲ですが状態や所在を表すのに使います。

estar + 過去分詞 (+ por)
La puerta estuvo abierta. ドアは開けられていた。
(福嶌、前掲書、110頁)

3. 原因の表現の比較
・英語の場合
原因を表すのにforやfrom、throughを使えます。
His cheeks were red from the cold. ほおは寒さで赤くなっていた。
(『プログレッシブ英和中辞典』小学館、2003年、from 9)
I cannot sleep for hunger. 空腹で眠れない
There's no excuse if you failed through lack of effort. 努力不足で失敗したのなら言い訳はなしだ。
(『Eゲイト英和辞典』ベネッセコーポレーション、for 16; through 7)

・ロシア語の場合

原因を表すのにот кого-чегоやиз-за кого-чегоを使います。こちらは奪格的発想かな。

От жары в комнате ей стало плохо. 部屋の中が暑くて彼女は具合が悪くなった。
Растения погибли из-за недостатка воды. 植物が水不足で枯れてしまった。
(『露和辞典』研究社、1988年、от 5; из-за 4)

9月14日追記:
с чего も使えるようです。これも「…から」と訳せる言い方=奪格的発想かも。
вскрикнуть с испуга. びっくりして悲鳴を上げる
сделать что со зла. しゃくにさわって…をしてしまう
умереть с голоду. 餓死する
(『露和辞典』研究社、1988年、c I-12a)

・スペイン語の場合
スペイン語のdeは出自、原因、部分を表すのに使えます。

Me muero de sueño. 眠くて死にそうだ。
(『西和中辞典』小学館、2007年、de 2-6)

porが理由を指す時に使えるのも、英語におけるforの用法と似ています。


Nadie la quiere por su mal carácter. 彼女は性格が悪いので誰からも好かれていない。
(『西和中辞典』小学館、2007年、por 1-2)

英語のofやドイツ語のvonとよく似ていますね。

フランス語のdeの守備範囲も近いように感じます。

・モンゴル語の場合
トルコ語の親戚筋のモンゴル語も奪格語尾で動作主を示せます。

Би энэ гуталыг түүнээс авсан私はこの靴を彼から取った(=もらった、買った)
(金岡秀郎『リアル・モンゴル語』明石書店、2009年、88)